スウェーデンの現状がしっかりと伝わる素晴らしい報告
前回、スウェーデンの状況を報告してくれた久山葉子さんと、やはりスウェーデン在住の宮川絢子医師の投稿です。
スウェーデンの現状がしっかりと伝わり素晴らしい内容でした。
これと別の投稿で、スウェーデンの高齢者施設でのクラスター感染死亡の状況が、宮川医師より説明されています。
以下は本文からの抜粋です
「都市封鎖せず」と独自路線のソフト対策を貫くスウェーデンの新型コロナウイルス対応が、世界的に話題だ。しかし、同国の「部分的ロックダウン」の真実、その実態とはいったいどんなものなのか?
スウェーデン・カロリンスカ大学病院・泌尿器外科勤務の医師で日本泌尿器科学会専門医の宮川絢子博士(スウェーデン移住は2007年)に、スウェーデン語文学翻訳者、エッセイスト、久山葉子氏(同2010年)がインタビューした。
1. スウェーデンの「部分的ロックダウン」の実態
各国が次々と国境を閉鎖、外出禁止、義務教育を休校にするなどの厳しい措置を取る中、“緩め”の独自路線を貫くスウェーデン。
3月17日に高校・大学・成人学校は閉鎖してオンライン授業に切り替えるよう要請があったものの、保育園・小学校・中学校はまだ平常どおり授業が行われている。
現在法律で禁止されているのは「高齢者施設の訪問」と「50人以上の集会」だけで、それ以外の「屋内外で他の人と距離を開けること」「パーティーや冠婚葬祭など人を多く集める機会を作らないこと」「スポーツ施設では更衣室で着替えないこと」「不要不急の旅行は避けること」は行政指導としての勧告にとどまっている。
日常生活では、お年寄り(70歳以上)には会わないようにする、少しでも体調がおかしかったら会社や学校には行ってはいけない、などが徹底されている。また、なるべくリモートワークで仕事をするようにも言われている。
しかし散歩などの外出は健康のためにむしろ奨励されているし、店やレストランも営業している。テイクアウトをする人は増加したが、他の人との距離が近すぎないかぎりレストラン内で食事することもできる。
スウェーデンの死亡者数の大部分を占める高齢者、特に高齢者施設に暮らす高齢者の死亡は、施設における感染対策の失敗が直接の原因です。ロックダウンしなかったこととはあまり関係がないですね。
ちなみに、日本で同様に10万人あたりの年齢別感染者を調べてみると20代から50代が最も多く感染しており、高齢者層は低めと、スウェーデンとは逆になっています。
日本とスウェーデン共に、高齢者は自己隔離をしているにも関わらず大きな差があるのは、繰り返しになりますが、スウェーデンの高齢者施設でのクラスターが原因です。
久山:各国がいちばん心配しているのは医療崩壊だと思いますが、今スウェーデンの状況はどうでしょうか。
基本的に医療はすべて公営のスウェーデンでは、普段から予算も人手も不足していて、風邪ぐらいでは受診できないことで有名です。わが家も夫が胆石の痛みで七転八倒したとき、手術は半年待ちだと言われました。重症患者が爆発的に増える可能性のある今回は、どのような対策が行われたのでしょうか。
宮川:医療崩壊を招かないためには、感染のピークを可能な限り低くし、医療現場のキャパシテイーを超えない患者数(殊にICU治療が必要な重症者)に抑えなければいけません。
久山:ICU病床数については、元々全国で526だったのが、現在は1050(5月4日時点)まで増えました。そのうちの509床が埋まっているそうですが。
宮川:新型コロナ以前のスウェーデンのICUベッド数は、人口10万人あたり約5.8床でした。これは、今感染の被害を最小限に抑え込んでいるドイツの5分の1程度で、これまでもICUのベッドが足りない状況はしばしば起こっていました。
しかし、まだ感染が拡大していない2月頃から、ICUのベッドを増やす計画が立てられていました。私の職場でもあるスウェーデン最大のカロリンスカ大学病院でも、以前の約5倍の200床程度まで増床されています。術後観察室がいち早くICUに改築されました。また、ICU治療が不必要な比較的軽症の患者用の入院ベッドも確保されました。一部の通常病棟を新型コロナ専用病棟にしたのです。それに伴って通常病棟のベッド数が減少したため、もともと予定されていた手術は大幅に削減されました。
手術に関しても、緊急のもの以外はできる限り延期することになりました。カロリンスカ大学病院では普段から癌の手術が多く行われていますが、癌の手術の中でも待てるものは延期されたり、他の治療法がある癌については治療法が変更されたりしています。また、例えば、乳癌の手術は全てストックホルム市内にある、新型コロナ感染者を扱わない私立病院へ委嘱しました。日本では考えられませんね。
ベッド数だけでなく、ICUで働く医師や看護師の確保も行われました。各臨床科の希望者や若手医師、麻酔科専門看護師、手術室専門看護師を始めとする看護スタッフを、ICU治療に当たれるように教育したり、全国から有志の医学生がトレーニングを受けて医療現場を手伝ったりと、各方面でスタッフの調達準備がされました。
また、今回、ICUなどの最前線での診療行為につくことになった臨時スタッフには、220%の給与の支払いをすることになりました。
久山:そういった準備が功を奏して、現在のところ医療崩壊には至っていないのですね。
宮川:はい。ただし、通常の診療が著しく影響を受けているのは確かですね。
久山:スウェーデンが普段から大切にしている「人間には皆同じ価値がある」という民主主義の精神が、ICU治療の選択の場でも浸透しているのですね。でもこの場合にかぎっては、高齢者は別ということになりますか。
宮川:高齢者はICUへ入室できないというと、スウェーデンは「楢山節考」などと揶揄されることがあります。しかし、そうではありません。高齢者にかかわらず、若年者でも、予後が悪いと分かっていれば、通常からICU入室を許されないことは往々にしてあることなのです。
医療資源は限られていますから、それをいかに有効に使うか、分配するか判断することは、スウェーデンの医療現場では重要なことなのです。
久山:なるほど。その一方で、治る見こみのある人については、経済力にかかわらず必要な治療を受けられるということですね。
宮川:スウェーデンでは、移民・難民であっても最低限の自己負担はありますが、全ての人に負担する医療費の上限があります。
外来診療では一年間の支払い最高額は1150クローネ(約1万3000円)、外来処方薬は2350クローネ(約2万7000円)。入院では日額100クローネ(約1100円)の負担になります。
つまり、低所得者や無所得者であっても、低額の負担でICU治療を含め、最先端の医療を受けることができるのです。